愛と地獄と至高の人生

オタクがなんか書きます

今日も明日も誰かが

以前勤めていた会社で仲が良かった上司と飲みに行った。

一年ほど前に自分の部下として入社した男性が正月に自殺したという話を聞いた。三十半ばで独身、大人しい方ではあるが周りの人と普通に飲みに行きコミュニケーションを取るような人で、仕事は優秀ではないが極端にできないということもなく特に愚痴を溢したり追い込まれている様子はなかったと言う。

年末の最終出社日に会った時特に変わった様子はなかったが、彼が「ちょっと調子悪いんですよね」と言うため面倒見のいい上司がランチに誘って一緒に食事をすると「美味しい」といつも通り笑っていた。年始いつから出社するのか実家に帰るのかを聞くと◯日に出社で実家には帰らないという話だった。

年が明けて◯日に彼は会社に来なかった。おかしいと思った上司が電話をかけても繋がらない。会社の人間が自宅のインターホンを鳴らしに行っても出てこない。その後緊急連絡先に登録されていた彼の兄や父に会社から電話をかけ、新幹線で一時間ほどの距離に住む父親と警察で自宅に行き鍵を開けてもらったところ家の中で亡くなっていたらしい。遺書は遺されていて父親が確認したらしいが、仕事を苦にして命を絶ったわけではなかった。何が原因かまでは上司も分かっていない。

「会社大変なことになってたんじゃないですか?」と聞くと、一部の人間にしか真実は知らされず、ほとんどの人達の中では休み明けから来なくなってそのまま辞めたと思われているらしい。

趣味がパチンコやキャバクラでお酒を飲むことが好きな人だったため、酒を飲んだ勢いだったんじゃないか?金銭的な問題があったんじゃないか?と上司は言った。本人の苦しみは分からないから助けられたらなんて口にはしなかったが、正月に家が近いから飲みに誘おうか悩んだタイミングがあってその時連絡すれば良かったということは後悔していた。

私は会ったことも顔も何も知らない人だが、その話を聞いて涙が出てきてしまった。自分から死を選ぶ人の苦しみ、残された周りの人の悲しみ。

「何にも知らない人だけど、なんか、気持ちは分かる部分があるから悲しくなってしまいました。何やっても上手くいかなくてどうにもならなくて全部お終いだなって気持ちだとそうしてしまうこともあると思います」

上司は私が一緒に働いていた頃、今より精神が不安定な状態だったことも知っている。

「Aさんも三十五くらいで亡くなったじゃないですか。自分がその歳くらいになって、その歳だからこその悩みがきっとあって、苦しくて死ぬ選択しか無くなったらどうしようって考えてしまいます」

Aさんとは上司と私が勤めていた会社で一緒に働いていて後に退職し、その後私が今居る会社で働いて数年後に自殺してしまった女性のことだ。大きな会社の違う部署に居たため、転職してから会うことは一度も無かった。明るく優しい人だった。彼女は精神疾患を持ち、ホストにハマっていたそうで考えられる原因は一応あった。本当のことは誰にも分からないが。

上司は私の言葉に対して「大丈夫だよ」と返した。まぁ、大丈夫じゃないなんて言えないからそう言うしかない。

私は今「大丈夫」だけど、半年後や一年後も大丈夫な自信がない。いつまた大丈夫じゃなくなるか分からない。

同じ高校で少し交流があった先輩が新婚なのに自殺してしまった。中学の時仲良くしていてその後疎遠になった同級生も自殺してしまった。二人とも明るくて賢く、友達が多い人だった。外から見ると恵まれていたり幸せそうな人でも明るい人でも、本当に考えていることや苦しみは周りに伝えていなければ近しい人にも分からない。

いつでも自ら死を選ぶということが側にある気がする。その選択をしそうになった瞬間がある。たまたま今生きてあの頃より少し元気になっている。辛いことが重なればまたすぐにでも暗闇に足を掬われそうだと思う。不安だ。

たまたま今生き延びていて、明日も事故に巻き込まれたりしなければ生きている予定だから、とりあえずこうやって自分の中で溜めておけない気持ちを書いたりご飯を買いに行ったりマッチングアプリの相手とやりとりしたり、大丈夫なうちに出来ることをやっておくことしかできない。